「編集長」という存在は、雑誌にとって非常に大きな存在です。
同じ雑誌であっても、その雑誌ブランドを守り、さらに次世代へと伝えていく使命を持つ「編集長」という存在によって、その雑誌は大きく変わっていきます。
さて、先日、日本の「かわいい」を代表する、誰もが知る女性ファッション誌『CanCam』に、新編集長・塩谷薫さんが就任しました。
小学館入社後、『プチセブン』『CanCam』編集部でそれぞれ5年半、そして『Domani』『AneCan』編集部を経て、再び『CanCam』編集部で5年と、約20年にわたるキャリアを積んできた塩谷編集長。
新編集長は、『CanCam』をどのようにしていきたいのか、そしてどのような存在なのか……これから2回にわたりインタビューをお届けします。
Woman Insight編集部(以下、WI) よろしくお願いします。さて、女性誌編集の世界で約20年のキャリアを積み、いざ、『CanCam』編集長になって……最初に編集長になる、ということが決まったときは、どのようなお気持ちでしたか?
塩谷薫編集長(以下、塩谷) いや……私がなるには畏れ多い、と(笑)。
WI あら、どうしてですか?
塩谷 『CanCam』は、小学館の数ある雑誌の中でも歴史のある雑誌で、来月11月21日に発売される2016年1月号で、34周年を迎えます。さまざまな世代の方に「知っている女性誌を挙げてください」と聞いたら、『an・an』、『non-no』『CanCam』を挙げる人が多いくらい、日本全国の老若男女、皆が名前は聞いたことがある雑誌ですよね。野球で言えば読売巨人軍、テレビ番組で言えば紅白歌合戦、お菓子で言えばポッキーやかっぱえびせん。私にとって『CanCam』はそんな存在なので、『紅白歌合戦』のプロデューサーをやってください、と言われて、「えぇ!?」と思うような……そんな感じだと思っていただければ(笑)。
WI 塩谷さんは新入社員の頃から編集長のような存在感があった、というスタッフさんからのタレコミもありましたが……。
塩谷 いやいやいや。私はもっとどちらかというと、「AD的な存在」で、『CanCam』のことを支えたいし、関わりたいと思っていました。私が指揮をとる船長になるのではなく、誰よりも船長を支える人になりたい……と思っていたんですよね。なので、「私が船長ですか!?」と。そんな感じです(笑)。
WI では、編集長になってくれ、との依頼を受け、受けよう、と思ったのはどうしてですか?
塩谷 私の尊敬する方が、「大事なものごとというのは、『自分からやりたい』というものではない。でも『やってくれ』と言われたら絶対断るものではない、神聖なものだ」と仰っていたんですね。私にとっても『CanCam』の編集長は神聖なものなので、私に依頼されたのは本当に有難いこと、と思い、引き受けました。……でも、編集長って、雑誌のすべてをジャッジする仕事なので、本当に正直言えば、やらないほうがラクなんですよね(笑)。
WI 本音ですね(笑)。
塩谷 あとは、お話をいただいたタイミングで、「私は人生をまっとうして死ぬときに、何を成し遂げた人だと思われるんだろう……」と考えたんです。周囲には結婚して子育てしながら頑張って働いている先輩や後輩、友達がいる。そんな人たちを見ていると、私、大変なことを何もしないで逃げてるな、って。だから、編集長の役割からも逃げたら、人生全部ラクしてるな、自分に何も見出しがつかず人生が終わってしまうな、と思ったんですよね。それよりは、塩谷さんって大変そうだったけど、『CanCam』の編集長をまっとうした人だよねって思われたほうがいいな、と。
WI 「自分に見出しがつかず人生が終わってしまう」という発想に、編集者魂を感じますね……! 実際、編集長の仕事はいかがですか?
塩谷 スタッフみんなで考えたタイトルや企画を、「こうして最終的に世に出そう」というジャッジをするのが編集長の仕事。それが世の中に出ていって、それに対して良かれ悪かれ反応がある……という面白さがありますね。編集長を経験してきた先輩たちが、皆さん、口をそろえて「編集長はやったほうがいいよ」とおっしゃっていたんですが……その意味を、最初に自分が編集長業務を担当した8月号をつくったときに実感しましたね。
WI 塩谷さんが8月号をつくりきったときの名言をどこからともなく聞いたのですが、『自分の頭で思い描いたものが、こんな形で誌面になるなんて、超嬉しい!』と……。そんなことを編集長が言うなんて、こんな楽しい雑誌はないんじゃないか、と思います。
塩谷 えっ!? そんなこと……言ってたかもしれない(笑)。台割を作って、一冊の流れを考えてひとつひとつのプランを決めて、そうやって自分の頭の中で何か月も前に考えていたことを、スタッフのみんなが形にしてくれる……というのは、感動的なことでしたね。
WI 塩谷さんはスタッフの皆さんへの愛がすごく強そうですよね。
塩谷 いい人ぶるわけじゃなくて、今までも後輩や関わるスタッフやモデルのみんなが元気で頑張ってほしいな、ということはいつも思っていたんです。今日撮影だけど雨だな、大丈夫かな、ということを心配したり。そしていざ、編集長という立場になると、とにかく『CanCam』に関わるスタッフみんなが、毎日元気で明るく過ごしてほしいな、ってお母さんみたいな気持ちになりました(笑)。
WI ……そんなことを思っていると知ったら、震えますね……! でも、『CanCam』の編集部の様子を見ていると、本当に家族のようですよね。
塩谷 そうですね、それが正しいかどうか……はわからないけれど、『CanCam』の34年の伝統のひとつに、「家族でつくる」といった空気がありますよね。部活のよう……というか、同じ釜の飯を食い、誰かの誕生日があったらみんなで祝い、誰かがナイストライするとみんなで喜び、何か問題があるとみんなでとことん話し……そんな中でつくっています。
WI 塩谷さんにとって、『CanCam』はどんな存在ですか?
塩谷 『CanCam』は私の妹だ、俺の恋人だ、娘だ、とさまざまな見解を述べる人がいますが(笑)、私にとって『CanCam』は日本国民みんなが知っている大物タレントで、私自身はマネージャー兼プロダクションの社長、という感じですね。
WI そのこころは?
塩谷 『CanCam』は、日本中のみんなに知られている人気者ですが、その人がどう歩んでいくかは、私たちがちゃんと戦略を練って考えていかなければいけません。その人が良くなるのも悪くなるのも私たち次第です。そんな、寝食をともにして、苦節何十年、歌手と一緒に歩んできたマネージャー……というイメージ。今、『CanCam』は自分の中で一番を占めています。考えすぎて、車にひかれそうになったぐらい(笑)。
WI え、車に!?
塩谷 今までも『CanCam』のことは頭の中に常にいて、考えていたつもりでしたが、編集長になってからはやっぱり変わりましたね。気づくとながーい間お風呂につかっていたり、シャワーがずっと流れていたり……。それくらいずっと、『CanCam』をどうしていきたいかを考えています。
そんな新編集長が、いったい今の『CanCam』、そして今後の『CanCam』をどうしていきたいと考えているのか……次回、後編にてお届けします!(後藤香織)
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